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「もっともっと欲しい」の貪欲の経済から、「足るを知る」知足の経済へ。さらにいのちを尊重する「持続の経済」へ。日本は幸せをとりもどすことができるでしょうか、考え、提言し、みなさんと語り合いたいと思います。(京都・龍安寺の石庭)
「生命線」・シーレーンの確保
あの「海賊対策」がめざす本音

安原和雄
 ソマリア沖の「海賊対策」は本当のところ何を目指しているのか。海賊対策にとどまるのであれば、武装した海上自衛隊の護衛艦2隻がわざわざ出動する必要はないだろう。本音は、海上自衛隊にとって宿願であるシーレーン(海上輸送路)防衛の推進にある。護衛艦隊元司令官自身が「日本の生命線 シーレーンの安全確保」を力説していることに着目したい。
しかしこのシーレーン防衛に対し、「幻想にすぎない」という批判が根強いだけではない。「日本の生命線を守る」という認識自体に危険にして時代錯誤の臭(にお)いがつきまとっている。(09年3月19日掲載、公共空間「ちきゅう座」、インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載)

▽大手紙の社説は「海賊対策」をどう論じたか。

 09年3月14日、護衛艦2隻が広島・呉基地を出港した。乗員は海上自衛隊員が約400人、海上保安官8人も同乗した。アフリカ東部のソマリア沖のいわゆる海賊対策が目的で、浜田靖一防衛相は自衛隊法に基づく海上警備行動を発令し、それを根拠に出港した。一方、海賊対策のための自衛隊派兵を随時可能にする「海賊対処法案」を閣議決定し、国会に提出した。今回の海上警備行動は同法案成立までのつなぎ措置である。

 つなぎ措置まで講じて、あわただしい出港となったが、この海賊対策なるものについて大手紙社説(3月14日付)はどう論じたか。まず見出しを以下に紹介する。なお朝日新聞はこの時点では社説で取り上げていない。

*毎日新聞=海賊対策 新法で与野党合意を目指せ
*読売新聞=海警行動発令 海賊放置の「無責任」解消へ
*日本経済新聞=ソマリア沖海賊法案の早期成立を望む
*東京新聞=海自ソマリアへ 『変則派遣』を危惧する

 これらの見出しからも推測できるように読売と日経が積極的賛成論で、毎日と東京が疑問点を指摘している。ここでは毎日と東京の社説要点のみを紹介する。
*毎日新聞=法案では武器使用基準を現行法より緩和するとともに、外国船舶も保護対象となる。(中略)重要なのは、今回の緩和が自衛隊海外活動全体の武器使用の無原則な拡大に結びつかないようにすることだ。自民党内には基準緩和を求める意見が根強い。
*東京新聞=問題なのは、現行法の枠内で海上自衛隊派遣の答えを導き出した点だ。海上警備行動は海上保安庁による対処が難しいときに発令され、本来は日本近海での活動を想定したものだ。自民党国防族が言う「海上交通路」防衛論の是非も吟味しないまま、アフリカまで守備範囲とみなすのは乱暴すぎる。国会での論議が足りていない。見切り発車には疑義がある。

 以上の社説を読んでみても、海賊対策なるものが本当のところ何を目指しているのかがつかみにくい。ただ東京新聞の〈「海上交通路」防衛論の是非も吟味しないまま・・・〉というさりげない指摘にヒントが潜んでいるのではないか。

▽ 「日本の生命線 確保を」― 護衛艦隊元司令官の主張

 たまたま自民党の広報紙「自由民主」(3月17日付)を読む機会があった。なんとそれに「ソマリア沖 海賊対策 ― 識者の見方」と題して金田秀昭・岡崎研究所理事(注)の主張が載っている。そのタイトルは「日本の生命線 シーレーンの確保を」が大きな活字の横見出しで、「断固として新法を成立させ国益を守り、国際社会に貢献」が縦見出しで躍(おど)っている。
 「日本の生命線 シーレーンの確保を」とは穏やかではない。これこそが首相官邸、自民党国防族、海上自衛隊を核とする日米安保堅持派が「海賊対策」という俗受けする名目の下に目指している本音ではないのか。

(注)金田理事は昭和20年生まれ、防衛大卒。海上自衛隊入隊後、護衛艦隊司令官などを歴任。平成11年退官し、ハーバード大上席特別研究員などを経て、現在、岡崎研究所理事、平和・安全保障研究所理事など。専門は安全保障・防衛問題。
 岡崎研究所の正式名称はNPO法人岡崎研究所で、理事長は岡崎久彦氏(元駐タイ大使、元防衛庁参事官など)で、タカ派として知られる安全保障問題の専門家。本人自ら「鷹は群れず」をスローガンに掲げて、「平和を叫ぶハトは非力だから群れる性癖があるが、タカは強いから群れない」と解説している。しかしタカ派に共通している軍事力依存症は果たして強さの証明だろうか。

 金田理事は海上自衛隊・護衛艦隊元司令官でもあり、その主張の内容(要旨)は以下の通り。

 日本の生命線となるシーレーンの安全確保を、日本単独で達成することは不可能であり、米国や世界の信頼できる海洋国家との連携が重要となる。今回の海自部隊の派遣は、国際的なシーレーンの安全確保に日本が関与することにより、日本の国益を守り、国際社会に貢献するという意義を持つ。
 政府はとりあえず現行法(海上警備行動)で派遣するが、海賊対処法(新法)が成立次第、同法での派遣に切り替える。

 新法は現行法に比し、三つの強点を持つ。
 第一は、日本関係船舶に限定した保護対象船舶を外国船舶にも広げる。これにより国際協力活動が可能となる。
 第二は、正当防衛に限定した武器使用権限に加え、民間船舶への著しい接近や進行妨害などを行い、警告に従わない海賊船に対し、船舶を停止させるための船体射撃が認められる。
 第三は、国連海洋法条約の海賊条項を国内法で整合させ、平素から海上保安庁や海上自衛隊に取り締まり権限を与える。これにより国際海域を航行する海自や海保の部隊が海賊行為に遭遇した際の対処について、国際規範に基づく明確な法的根拠が与えられる。

 海上警備行動は、とりあえずの「便法」である。あらゆる政治手的手段を使ってでも断固として新法を成立させるべきである。新法が根拠となれば、他国海軍部隊との連携も違和感なくはかどるであろう。さらに悲願の国際協力恒久法の制定に弾みをつけることも期待できる。
 官民間では挙国体制が実現する。元々「護衛艦」の名称は、商船の護衛に由来する。戦後半世紀を経て、日章旗(商船)と旭日旗(護衛艦)の渾然一体の場面が実現する。

 ここで大事なことは、国家挙げての負託である。国民の理解と期待が得られるならば、海自は結束して、いかなる困難も乗り越える気概を持つ。政府、与党は、シーレーン防衛の重要性について国民を啓発していかねばならない。
 国内政治はどうか。成熟した国家の政治では、安全保障の問題は政局とはならない。政権党を目指すのなら、民主党は新法を政局の材料とすべきではない。
大多数の国民は、民主党が新法に曖昧な態度をとり続けていることに疑念を抱いている。同盟国米国も不安視している。主要政党が、党派を超えて海自の壮挙を支持する姿勢を見れば、国民は安心し、海自は発奮するであろう。

 政治にお願いしたいことが、あと二つある。
 折しも防衛計画の大綱の改定や中期防衛力整備計画の策定作業が進捗(しんちょく)している。この機会に兵力整備(ヒト、モノ、カネ)や部隊運用など、抜本対策の方向付けを強く期待する。
 もう一つは、シビリアン・コントロールである。政治(行政)による部隊運用への過度な干渉は、百害あって一利なく、厳に慎むべきである。

 以上、海上自衛隊の護衛艦隊元司令官の考え方、主張は通常、多くの有権者には触れる機会が少ないと思われるので、少し長めに紹介した。
 「シーレーン防衛は日本の生命線」という主張から始まって、同盟国米国への配慮、民主党への注文、兵力整備の強化、シビリアン・コントロール(文民による軍人統制)への批判に至るまで海上自衛隊制服組の本心を吐露している。

▽「シーレーン防衛は幻想」― 元国防会議事務局長の見解

実は私(安原)はシーレーン(海上輸送路、あるいは海上交通路)防衛については以前から批判的関心を抱いてきた。この機会に28年も前の私のインタビュー記事(毎日新聞・1981年4月14日付「ゆうかんインタビュー」=東京版)を紹介したい。
 相手は海原治・元国防会議事務局長(防衛庁防衛局長、官房長などを歴任)で、「海上輸送路防衛は幻想」、「無数の船団、どう護衛」、「増強への口実にすぎぬ」という大きな見出しが並んでいる。念のため補足すれば、「増強への口実・・・」は、「日本の軍事力増強への口実」という意味である。
 小見出しを拾うと、「願望の先行 危険な発想」、「防衛庁にも具体策なし」、「米軍でさえ不可能だ」―などとなっている。

以上の見出しから記事の内容も推測がつくが、折角の機会なので一問一答の内容(要旨)を紹介したい。

安原:また海上輸送路防衛論が高まってきた。
海原:非常に危険だと思う。日本人は、こうしたいという願望だけが先行する。それをどう達成するか、その方法論を検討しない。それが日本人の発想の特徴だ。だからこわい。
安原:シーレーンの安全確保といっても具体的に何をするのか、どうもよくわからない。
海原:防衛庁にも具体策はないのが実情だ。平時なら対潜哨戒機を飛ばして日本周辺海域のどこにどれくらい(ソ連の)潜水艦がいるのか、その情報を米国に通報してやる。それが同盟国日本としての唯一の義務だ。しかしいったん有事になったら対潜哨戒機の基地は真っ先に破壊され、飛ばしたくても飛べなくなる。だから有事の時のシーレーンの確保をいうのは、ナンセンスだ。

安原:日本は経済大国だが、資源小国で、資源、エネルギー、食糧のほとんどを海外からの輸入に頼っている。したがってその輸入のための航路の安全確保は至上命題だといわれると、もっともらしく聞こえる。
海原:それが日本人が言葉だけでものを考える一番いい例だ。わが国は、世界中から輸入物資を運んできている。シーレーンは無数にあるわけで、その船をどうやって守るのか。それは幻想だ。

安原:昨年(1980年)話題になった清水幾太郎氏の『核の選択』(注)のように、空母部隊の新設などで日本のシーレーンを防衛すべきだという威勢のいい議論がある。防衛庁は、いまの海上戦力では不十分なので、もっと増強をと主張しているが、大規模な戦力を持てば、可能ということか。
海原:米海軍の責任者が不可能といっている。米海軍の威力をもってしてもできないことが、日本にできるわけがない。清水氏のあの論文は狂気の沙汰だ。実際に書いたのは清水氏ではなく、旧陸海軍のとんでもない連中だ。
 (注)清水氏の著作『核の選択』は①船団護衛のための護衛隊群を増強し、ハワイ南方まで守る、②米第七艦隊の空母部隊と同規模のものを二つ創設し、一つは北太平洋、もう一つはインド洋から南シナ海をパトロールする構想を提唱。その費用は計約12兆円。

安原:防衛庁の中期業務見積もりでは、最新型の対潜哨戒機P3C(一機80~96億円)を37機調達することになっている。海上輸送路防衛論が高まると、装備近代化のピッチを上げるいい口実になる恐れがある。
海原:国民の税金で買う以上、どういう効果があるかを証明する必要がある。ところがその点は、秘密とか何とかいってむにゃむにゃとなる。それに米国の軍人や政治家が言うことだから正しいと考えてはいかん。ベトナム戦争の失敗がいい例で、介入を深め、結局失敗した。ところが防衛庁はいま、米国のお声がかりで渡りに船とばかりに、戦力の増強というかねての宿願達成のためまっしぐらということになっている。だから危険だと思う。

▽シーレーン防衛は危険で時代錯誤(1)― 歴史の教訓に学ぶとき

 インタビューから28年後の今、読み返してみて、現下の情勢と合わない部分もあるが、今なお当てはまるところも少なくない。
 はずれているのは、当時の米ソ冷戦時代の軍事的対立国・ソ連は崩壊し、今では存在しないことである。一方、今日もなお生きていて、策謀の目標になっているのがシーレーン防衛に名を借りた戦力増強である。

 上述の金田護衛艦隊元司令官は兵力整備(ヒト、モノ、カネ)を強調している。この兵力整備路線の先には空母(航空母艦)部隊の新設も意識の底に潜んでいるのではないか。お隣の中国に空母部隊新設の動きが取り沙汰されているだけにこのテーマは軽視できない。
 これはかつての空母部隊新設をめざす清水構想という亡霊がよみがえることを意味する。清水構想によれば、当時の推計で空母新設の費用は計12兆円というから、現在の年間防衛費総額約5兆円と比べてみれば、いかに巨額財政資金の浪費であるかが分かる。

 強調しておきたいのは、シーレーン防衛という発想そのものが危険であり、時代錯誤だという点である。なぜそういえるのか。
 まず「日本の生命線・シーレーンの防衛」という発想自体に危険な臭いがつきまとっているからである。日本人だけで310万人の犠牲者を出したアジア太平洋戦争に伴って叫ばれたスローガンが「日本の生命線の死守」であった。「満州・蒙古は日本の生命線」、「アジア南方の石油資源確保は日本の生命線」などである。「生命線の確保」は戦争と表裏一体の緊密な関係にあった悪しき歴史の教訓を忘れてはならない。

▽シーレーン防衛は危険で時代錯誤(2)― 武器使用の自由化が意味するもの

「海賊対策」の名目で始まった海上自衛隊の海外派兵は、期限なく常態化することはほぼ間違いないだろう。新しい「海賊対処法」が国会で成立すれば、武器使用がかなり自由になる点を重視したい。これは従来の自衛隊の海外派兵が米軍などに対する「後方支援」にとどまり、武器使用が制約されていたことからの質的転換を意味し、海外情勢の変化によっては例の集団的自衛権の行使、つまり海外での日米共同作戦につながる懸念もある。

 しかも金田元司令官のつぎの言辞が気になる。
 「海自は結束して、いかなる困難も乗り越える気概を持つ」
 「政治(行政)による部隊運用への過度な干渉は、百害あって一利なく、厳に慎むべきである」
特に後者のシビリアン・コントロールを拒否するような姿勢から、実戦を体験してみたいという自衛隊制服組の勇み立つ心情を読みとることは見当違いではないだろう。日本から遠く離れた海域で「海賊」と「敵国の艦船」の区別が曖昧になって、国民の知らないうちに「交戦状態に突入」といったテレビや新聞の大見出しに仰天させられる事態も絶無とは言えない。

▽シーレーン防衛は危険で時代錯誤(3)― 地球環境保全時代には不適切

 もう一つ、シーレーン防衛の大義名分は、石油や食料など資源輸入のための海上輸送路の安全確保である。しかし今や地球温暖化防止など地球環境保全を優先させるべき時代である。
 地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)を排出する石油の海外依存度を減らして、国内での再生可能な自然エネルギー(太陽光、風力、水力など)開発へと転換を図るときである。その転換の具体例がオバマ米大統領の「自然エネルギー開発と雇用創出」を目指すグリーン・ニューディールである。
 一方、40%という先進国最低のわが国の食料自給率を引き上げることが大きな課題となっている。食料の輸入依存度が減れば、それだけ海外からの長距離輸送に伴うCO2の排出量も減り、温暖化防止にも貢献できる。

 今日の地球環境保全優先時代には石油や食料の海外依存度を大幅に削減する努力を軽視して、幻想とも言うべきシーレーン防衛にこだわるのは、いかにも不適切な作戦であり、時代錯誤というほかないだろう。 


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コメント
この記事へのコメント
「政治(行政)による部隊運用への過度な干渉は、百害あって一利なく、厳に慎むべきである」の発言などは、何を考えているのかと思います。
先の戦争で、平和の大切さを学んだはずなのに、最近、安易に力で片付けようとする風潮が強いようで、危機感を覚えます。
2009/03/19(木) 21:15:40 | URL | 赤坂亭風月 #-[ 編集]
勇み立つ自衛隊
赤坂亭風月さん、コメントをいただきました。
「最近、安易に力で片付けようとする風潮が強いようで、危機感を覚えます」という感想には同感です。どうも最近の自衛隊関係者の間に勇み立つ雰囲気が広がりつつあるようで、要注意です。
武装集団がシビリアン・コントロールを軽視し、反発するようになると、日本の進路そのものを誤らせることにもなります。

2009/03/20(金) 12:22:54 | URL | 安原和雄 #-[ 編集]
軍国化の加速
防衛庁の防衛省への昇格、田母神発言など、自衛隊の本格的な軍隊化がどんどん進んで行くような危機感を持っていましたが、28年前の安原さんのインタビュー記事(相手=海原治元国防会議事務局長)を含む論説を読み、寒気がするほど恐ろしい気持ちになりました。
2009/03/23(月) 00:27:22 | URL | 怖がり屋 #-[ 編集]
目が離せない自衛隊
怖がり屋殿、コメントをいただきました。
ご指摘のようにうかうかしていると、自衛隊が軍事力を行使する本格的な軍隊へと急ピッチで変質していくことにもなりかねません。
目が離せない自衛隊、というのが、近況です。油断禁物です。
2009/03/23(月) 11:07:38 | URL | 安原和雄 #-[ 編集]
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