「もっともっと欲しい」の貪欲の経済から、「足るを知る」知足の経済へ。さらにいのちを尊重する「持続の経済」へ。日本は幸せをとりもどすことができるでしょうか、考え、提言し、みなさんと語り合いたいと思います。(京都・龍安寺の石庭)
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「義」を期待できるか08年
「偽」に明け、暮れる07年

安原和雄
 波乱に満ちた2007年は「偽」に明け、「偽」に暮れようとしている。この「偽」にまつわる感想を多くの人からいただいた。友人の清水秀男さんから定期便(月1回)のメッセージ(07年12月分)が届いた。「一年の世相を表す〈今年の漢字〉に選ばれた〈偽〉の問題を私自身の反省もこめて取り上げた」と書いてある。もう一つは、日本経営道協会代表 市川覚峯さんからの「覚峯メッセージ」で、「今年を表す言葉、"いつわり〟は、日本として恥ずかしい。残念な事」とある。
 どちらも「偽」にかかわる示唆に富んだ一文なので、以下に紹介する。来年08年は「偽」ならぬ「義」を取り戻すことはできないだろうか。そういう期待を込めて一年を振り返る。(07年12月28日掲載、同日インターネット新聞「日刊ベリタ」に転載)

▽「偽り列島 冬景色」の日本

 まず清水さんのメッセージ(大要)を紹介したい。

 今年を振り返ると、1月の不二家の期限切れ原料使用から始まり、“食”に関する企業(石屋製菓、赤福、船場吉兆、ミートホープ、比内鶏、マクドナルド)を中心とする、産地偽装・期限改ざん等の偽装表示、ニチアスと東洋ゴムの建材の耐火性能偽装、栗本鉄工所の橋材強度偽装・試験データ改ざん、あげくの果ては原子力発電所の報告データの改ざんや隠蔽等まさに「偽り」のオンパレードの年であった。逮捕された防衛省守屋前事務次官の問題も「偽り」の部類に入る。

 まさに「偽り列島 冬景色」の様相である。恒例の一年の世相を表す「今年の漢字」に「偽」が選ばれたのもむべなるかなである。

 老舗と言われる「赤福」や「船場吉兆」が不祥事を起こしたことに思いを巡らしてみたい。老舗には本来いくつかの良き共通点があり、長寿を保ってきたのではないだろうか。

 船橋晴雄一橋大学客員教授は「経営理念 長寿企業に学べ」(日経06/9/20朝刊)で次の3点を挙げている。
① 法令順守への強いこだわりがあること
 社会的非難を受ける可能性のある商いに臆病なくらい慎重である。
② 経営者の多くは企業を自分のものと思っていないこと
 マイカンパニーではなくユアカンパニーの意識を持つ。
③ 企業を社会的存在ととらえること
 企業を支えるステークホルダー(客、従業員、取引先、地域)との関係を重視する。

 私は老舗企業の特徴に次の2点を追加したい。
④ あくまで本業を重視すること
 いたずらに多角化・拡大路線を進むのではなく、進むにしても本業の延長線上の事業に特化する。
⑤ 創業者の強い倫理観に根差した家訓があり、順守していること

 これら5点をベースにして両社の現状をみると、今や完全に老舗失格である。
 法令順守軽視、マイカンパニー意識、企業の社会的存在としての意識の欠如は共通であるし、本業重視の観点からは「船場吉兆」は高級日本料理の本業から離れて明太子、カレー、プリンの販売にまで手を出し、事業の多角化・拡大路線を進み、ほころびが出ている。
 「赤福」は、鮮度が自慢で「製造したその日限りの販売」をうたい文句にして名を成した地方の銘菓から、消費期限を偽装してまで、全国展開拡大路線を歩んだ“つけ”が現われている。

 さらに両社には創業者の立派な企業倫理があるにもかかわらず、利益追求に走り、それら倫理は全く踏みにじられている。老舗にあぐらをかいた驕りが招いた結果である。
 ちなみに、その倫理観とは、次のような内容である。
①「吉兆」の場合、創業者湯木貞一氏は茶道に造詣が深く、その「もてなしの心」で料理への魅力を生涯かけて探求したという。常日頃言っていた言葉がある。「料理屋とできものは大きいなったらつぶれる」、「料理と屏風は広げすぎたら倒れる」
②「赤福」の場合、真心を尽くすことで素直に他人の幸せを喜ぶことが出来るという思想を表した「赤心慶福」という社是がある。赤福という名もそこから由来している。

 創業者精神に立ち返り、「正直であること」「隠蔽しないこと」「責任転嫁をしないこと」という当り前の精神規範があらためて問い直される事例である。

▽「偽」シリーズから学ぶべきこと― 釈迦の教えも

 清水さんからのメッセージを以下にもう少し紹介する。

 今年の「偽」シリーズを通じての事象から、あらためて学ぶべき点が多々ある。
第一に老子の言葉「天網恢恢(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず」(天道は厳正で悪事には早晩必ず悪報がある)にもあるように、「悪事は必ず露見する」という真実である。

第二に利益至上主義のみの経営は破綻するということである。
 明治中期に住友財閥の第二代総理事の要職を務め、禅にも参じた伊庭貞剛(1847~1926年)の座右銘は、「君子、財を愛す。これを取るに道あり」《東嶺禅師(白隠禅師の高弟)『宗門無尽燈論』》である。
 お金を儲けるのは決して悪いことではない。しかし、儲け方には道があり、人の道に反した儲け方をしてはならないという戒めである。
 伊庭氏の高潔な生きざまからして、儲け方のみでなく儲けた金は道にかなった使い方をしなければならないということも含んでいると思う。
 ライブドア事件をはじめ不祥事が続出し、「資本主義の規範」の欠落が問われている昨今、あらためて企業人が噛みしめなければならない根本精神である。

第三に今年の不祥事の発覚はほとんど関係者(特に従業員)によるマスコミ等への内部告発だと思われる。
 サラリーマン川柳の「不祥事は増えたのではなくバレタのよ」は、笑いごとで済まされない事実である。
 06年4月「公益通報者保護法」が施行され、上場企業に関してはかなり窓口が設置されたが、まだ非上場企業、中小企業では設置されていないようである。
 経営トップは、企業は社会的公器であることに思いを致し、社内の風通しを良くし、不正がすぐ見つかるようにすると共に、「マイナス情報は宝物」の感覚を持ち、隠蔽しないで内外に正直に公表する。

 最後に「悪」に関して戒めている釈迦のつぎの言葉を噛みしめながら、「偽り」の年の締めくくりとしたい。
 「その報いはわたしに来ないだろう」とおもって、悪を軽んずるな。水が一滴ずつ滴りおちるならば、水瓶でもみたされるのである。愚かな者は、水を少しずつでも集めるように悪を積むならば、やがてわざわいにみたされる―と。
(『法句経』121番 中村元著『ブッダの真理のことば 感興のことば』岩波文庫)

▽日本的経営の真髄 ― 先達経営者の語録から

 以下では日本的経営の真髄ともいうべき優れた企業経営者たちの語録を中心に「覚峯メッセージ」(要旨)を紹介する。

私たちは先達、先哲、経営者が大事にしてきた言葉を守り、
「日本的経営の真髄」をつかみ、それを実践しなければ、
真の日本企業の発展、経済の繁栄はないと考える。
近頃、「黄金の奴隷」になり、利益ばかりを求め、
企業は金儲けが目的だと勘違いしている。
経営者たちに「国利民福」「公利公益」を心に
企業の繁栄を考えた先達経営者の言葉を
蘇らせていただきたいものである。
 以下に私の好きな先達経営者の語録を紹介する。

日本経営道協会
代表 市川 覚峯

1 人に喜びを与え一緒に幸せになろう (東京コカコーラ 高梨仁三郎)
2 最も社会に奉仕する企業が最も利潤を上げる (オムロン創業者 立石一真)
3 世の中に喜びの種をまいてゆけ (ダスキン創業者 鈴木清一)
4「先義後利」理を見ては義を思え (大丸創業者 下村彦左衛門)
5 うそをつかなければならない経営は心から慎め (豊年製油中興の祖 杉山金太郎)
6 智に走らず奇略に走らず堂々と正規軍の戦いをせよ (武田薬品工業・元会長 武田長兵衛)
7 儲ける経営より「儲かる経営」 (リコー・三愛グループ創業者 市村清)
8 金のために働かず天のために働くべし (片倉製糸創業者 片倉兼太郎)
9 利益が出ないと嘆く前にお客様へのお役立ちの至らなさを反省せよ (一燈園 西田天香)
10 金などは必要な時集まってくる「国利民福」を心掛けよ (カルピス創業者 三島海運)
11 黄金の奴隷になるな (出光興産創業者 出光佐三)
12 損して“徳”とれ 理は努力の結果なり (船場の商法 和田哲創業者 和田哲)
13 大きな仕事に取り組め 小さな仕事は己を小さくする (電通中興の祖 吉田秀雄)
14 人のやらないこと、困難なことに勇敢に取り組め (ソニー創業者 井深大)
15 成功は99パーセントの失敗に支えられた1パーセントだ (本田技研工業創業者 本田宗一郎)
16 困難を乗り切れば愉快になる (安田生命 安田善次郎)
17 艱難こそが普段の人間成長を促す (東芝中興の祖 土光敏夫)
18 企業は人間を磨く道場である (TDK中興の祖 素野福次郎)

参考:日本経営道協会 http://www.keieido.jp/

▽日本資本主義の父、渋沢栄一の座右銘は「義」

「偽」が氾濫し、企業経営の羅針盤を見失ったとき、先達の智恵に聴いてみるのも有力である。ここでは日本資本主義の父ともうたわれた明治・大正時代の財界リーダー、渋沢栄一(1840~1931年)の座右銘を紹介したい。それは渋沢著『論語講義』(講談社学術文庫)で取り上げている論語のつぎの言葉である。キーワードは「偽」ならぬ「義」である。

  「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」

 渋沢はつぎのように解説を加えている。
 君子(人格の優れた人)と小人(人格の劣った人)はその心術同じではない。君子は平生つねに善をなすことに志し、何事に臨んでも、それが義(正しい道理)に適するや、あるいは適せざるやを考え、その後進退取捨を決する。すなわち義のよろしきに従うを主義とする。
 これに反して小人は平生つねに私利を謀(はか)ることに志し、万事につけて利害を目安に進退取捨を決する。すなわち利にさえなれば、たとえそれが義に背くことであろうとも、そんなところには一切頓着せず、利益本位に打算するのが小人の常である ― と。

 渋沢は日本で初めて株式組織の商事会社を設立したのをはじめ、日本最初の銀行「第一国立銀行」創設にも参画し、頭取に就任したほか、生涯500余の企業設立に関係した。だから株を所有する機会も多かった。その渋沢は企業観、株式観についてつぎのように述べている。

 事業に対するときには、まず道義上より起こすべき事業か、盛んにすべき事業かどうかを考え、利損は第二位に考えることにしている。(中略)そう考えて事業を起こし、これに関与し、株を所有する。ただし株が騰貴するだろうと考えて、株をもったことはない ― と。

 このように渋沢は「義第一」に徹していた。そういう渋沢の目から見れば、昨今の日本列島は小人の群れに占拠されたというほかないだろう。
 清水さんのメッセージに明治時代の住友財閥リーダー、伊庭貞剛の座右銘「君子、財を愛す。これを取るに道あり」が紹介されている。同時代を生きた渋沢と伊庭は「東の渋沢 西の伊庭」とも評され、東(東京)西(大阪)財界を代表する巨峰のような存在であった。
 21世紀初頭の今からみれば、いささか今昔の感が深い。とはいえ特に渋沢の行動理念は経済に限らない。政治、社会のあらゆる分野で今こそ実践されるべきものである。
 さて来年08年は果たして「偽」から「義」への転換点を印すことができるだろうか。


(寸評、提案歓迎! 下記の「コメント」をクリックして、自由に書き込んで下さい。実名入りでなく、仮名でも結構です)

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コメント
この記事へのコメント
経営者だけでなく、政治家のみなさんにもぜひ読んでいただきたい今回の記事ですね。

座右の銘にしたい(していただきたい)金言がいっぱいです。

私も、今年の一字「偽」の字をお坊さんが書くパフォーマンスを見て、さびしい気持ちで胸がいっぱいになりました。

雪印の牛肉偽装を内部告発をした西宮冷蔵の社長さんを追ったドキュメンタリー映画があります。
http://diary.jp.aol.com/nkhuhjyme7sn/

こういう人たちが浮かばれる世の中でなければならないと思います。

2007/12/29(土) 01:15:11 | URL | justice #-[ 編集]
経済は道徳とともに
立石さん、「拍手」と共にブログ管理人宛の感想をいただきました。さまざまな「縁」を感じました。御礼申し上げます。

さてjusticeさん、大変結構なコメントに感謝します。
私は今こそ渋沢栄一論、つまり渋沢にいかに学ぶべきかというテーマで大いにやるべき時だと思っています。
ご承知と思いますが、渋沢は埼玉県深谷市の出身で、そこに「渋沢栄一記念館」があります。もう10年以上も前のこと、訪ねたことがあります。来てよかった、と思ったのは、渋沢の講演の録音テープが保存されており、それを聴くことができたときです。

若干甲高い声で強調していました。「経済は道徳とともに進まなければならない」と。企業経営者に限らず、一人でも多くの人に聴いてもらいたいと思っています。本で読むのとは違った理解ができるし、あの偉人が身近な存在にさえなってきます。
「渋沢さんに聴く会」のツアーでも企画するときですね。今話題の品格とは何かをつかむきっかけになるかもしれません。
2007/12/29(土) 11:53:09 | URL | 安原和雄 #-[ 編集]
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